2023.04.08 『サバイバーフィールド 地獄の英雄』 2022
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クロアチア映画
クロアチア紛争で起きた激戦を圧倒的な臨場感と壮大なスケールで描く戦争アクション。1991年6月、クロアチアの独立宣言と共にブコバルの戦いが勃発。3万6000人のユーゴスラビア人民軍に対し、わずか1800人のクロアチア義勇兵が立ち向かっていく。ーーGEO.onlineより
戦争の悲惨さを描く戦争映画は数多いが、この作品には、「誰が・いったい・何のために戦うのか」まったくわからない、といった不条理な問いが前面に押しだされている。昨日の友が「宿敵」となって、銃を向け合う。しかも、ここに描かれるのは、旧ユーゴ紛争の発端にすぎなかったことを「観客」は識っている。
十数年の後、クロアチア語を話すアメリカ人記者がかつての戦地を訪れ、「六番目のバス」の謎を知る人物を捜し歩く。臨場するのは、しかし、戦犯法廷で互いに相手を戦争犯罪人の人殺し・精神異常者と罵りあう生き残り兵士たちの「現状」だった。
この地で育ち、クロアチア兵士だった父親と生き別れになった少女。それが「アメリカ人」記者の、振り捨てられない過去だった。過去は過去ではなく、つかみそこねた「現在」はいつまでも傷痕のままだ。戦闘のさなかで人びとは明らかに、戦争が駆りたてる狂気(人殺しの愉悦)に取り憑かれていった。気まぐれに捕虜をいたぶり、命を奪る。すべてを支配する権力慾の神であることに陶酔していく。
その生き残りたちが、今度は戦犯法廷という「戦場」において、一方は告発者、もう一方は被告(もしくは精神病者)として対峙する。醜悪で無用な敵対の構図が、戦時とまったく同一であることをーー作品はいやおうなく訴えているかのようだ。
2023-04-10