2023.02.22 イーゴル・コプイロフ『アンノウン・バトル 独ソ・ルジェフ東部戦線』 2019
RZHEV
第二次大戦中、ソ連とドイツの激戦地となったルジェフ。1942年11月、モスクワ近郊まで進軍していたドイツ・ナチス軍に対してソ連赤軍が反撃を仕掛けるが、ドイツ軍戦線を突破できず130万人もの兵士を失う大打撃を負ってしまう。それ故、この“ルジェフ会戦”は、存在そのものがソ連戦史から封印されていたといわれている。
しかし、この知られざる戦いを契機に戦況は一変、ソ連赤軍は戦線をモスクワから、さらに約160キロ押し戻すことに成功。ドイツ軍は補給を絶たれることになり、翌年3月に退却を余儀なくされた。
130万人もの死者を出したことで、ソ連戦史から永く封印されていたが、戦地に身を捧げた兵士たちの功績が称えられ、半世紀以上の時を経た今、“ルジェフ会戦”が初めて映画化された!
本作の原案は、当時独ソ戦にソ連赤軍の兵士として従軍した作家ヴャチェスラフ・コンドラチェフ氏のルジェフ最前線の1日を描いた小説。ーーAmazon.comより
「この映画の収益は退役軍人支援組織に寄付される」と、明記される。
一つの村落の奪還のために、非合理かつ多大な犠牲がはらわれる。村民を皆殺しにして地下に死骸の山をきずくナチスの蛮行は「定番」といっていいが、この作品は、自国の兵力の消尽を当然とする上層部の非情さを、執拗に暴き立てる挿話を満載している。
半数の兵士を喪いながら拠点を確保した部隊に、本部は増援物資の替わりに、兵士を査問する情報部将校を送りこむ。狂信的な情報部将校は、敵のビラを所持していた兵士をスパイの罪で銃殺しようとする……。
生き残りの兵士たちの前歴は、泥棒だったり、隠れた「反革命」分子だったり、さまざまだ。
対ナチスの祖国防衛戦争であったと同時に、国内の異分子を粛清する抗争でもあった「大祖国戦争」。その歴史の暗部が容赦なく直視されるのだ。
戦争観というよりも、兵士の人的損傷にたいする思考が、ロシアでは根本的に異なっていることを、あらためて痛感させる作品だ。
2023-02-25