2023.02.09 カレン・シャフナザーロフ『ホワイトタイガー ナチス極秘戦車・宿命の砲火』 2012
BELYY TIGR
第二次世界大戦末期を舞台、ドイツ軍とソ連軍の戦車による死闘を描いたアクション。監督・脚本は「蒼ざめた馬」のカレン・シャフナザーロフ、出演はアレクセイ・ヴェルトコフ、ヴィタリー・キシュチェンコ。第85回アカデミー賞外国語映画賞ロシア代表作に選出されたほか、数々の映画祭にも出品された。数多く登場する往年の名戦車も必見。
戦争の長期化で、兵士たちの疲弊が頂点に達していた第二次世界大戦末期ヨーロッパ東部戦線。劣勢だったドイツ軍から突如出現した重量車“タイガーI改”により、数的優位にあったソ連軍は壊滅的な打撃を与えられていく。その神出鬼没な巨大戦車は“ホワイトタイガー”と呼ばれ恐れられる。そこでソ連軍司令部はホワイトタイガーに打ち勝つべく、より強い戦車“T-34”を製造。その舵取りを、戦争で傷を負い記憶をなくした戦車兵に命じるのだが…。ーーall cinema onlineより
戦車戦で全身に火傷を負うが奇跡的に生き残った兵士が一方の主人公。彼は「戦車の声が聴こえる」などと神がかり的なことをつぶやくようになる。ホワイトタイガーによる被害はつづくが、ドイツの劣勢が覆ることはない。だが、肝心のホワイトタイガーは「マボロシではないのか」といった風説もひろまる。
戦争は終わり、廃墟のベルリン市街。
戦車兵は、自分の戦争は終わっていない、と宣言する。「50年経とうが100年経とうが」ホワイトタイガーとの宿命の戦いは終わらない、と。ーーこうして、この映画の非合理な、ファンタジーっぽい設定は、すべて説明されずに終わる。「往年の名戦車」による戦争アクションの魅せ場も、リアリズムとは一線を画しているわけか?
最後の、蛇足めいたシーンによって、作者は、ロシアの好戦国策映画への二枚舌的な批評を果たしたようだ。月並みな戦争映画は嫌、しかし戦争は歓迎ーーと。ヒトラーの亡霊のような人物が、ヨーロッパの「解放」についてゴタクを並べ、「戦争こそ人間の自然状態なのだ」と結論する。ただし、このシャフナザーロフの意図については、つかみにくい。諷刺なのか、才気をひけらかしているだけなのか。
現下の「戦争」においては、ドイツによる戦車供与に関して、独裁者プーチンがさっそく宿敵ナチスを引き合いに出して批難声明を発した。ドイツのウクライナ支援は、侵略を正当化するための歴史観にとって、利用しやすいトピックであった。
この映画は10年前の作品だが、不気味な預言にみちていると思えてならない。
2022年の侵略がはじまった後、シャフナザーロフの名前はZシンボルの支持者としてあがっている。Zシンボルとは「侵攻支持」の忠誠マークだ。
2023-02-11