気になっていた黒川祐次『物語ウクライナの歴史』(中公新書 2002)。図書館で済まそうと思っていたところ、「予約殺到本」の一冊になっている。順番を待っているあいだに、この戦争は終わっているかもしれないし、別の戦争が燃えさかっているかもしれない。
20年前の書物といっても、鮮度は充分。よく売れ、よく読まれている価値はある。中世の大国、キエフ・ルーシ公国の歴史解釈について、ロシア、ウクライナ両国それぞれの正当化が、公平に紹介されている。
考えてみれば、多くの日本人が、ウクライナ文学をロシア文学から切り離して読むという体験とは無縁にすごしてきた。ゴーゴリもブルガーコフも、緩い意味でのロシア小説だった。
アンドレイ・クルコフは、ウクライナ国籍のロシア人作家。ーーといったような所属性を、過去のロシア文学にもあてはめてみる必要がある。
《ロシアはウクライナでの戦争を欲している》
ーーこれは、クルコフの『ウクライナ日記』からの一行。日記は、9年前の「クリミア併合」時のドキュメントだが、今現在のレポートとしても、読めてしまうことが怖ろしい。
2022-09-06